フィリピンには未だに離婚という制度がありません。現代の国民のライフスタイルに全くマッチしていない日本のNHK受信料問題のような存在で、多くのフィリピン国民もうんざりしているようです。今回は、フィリピンでの離婚の大まかな手順と、なぜ最終的な判決がおりないのかを解説します。
そもそもの離婚の手順
フィリピンで離婚をするには以下の方法があります。
- 配偶者が死別する
- アナルメントを裁判所に申し立てる
- 海外離婚認証裁判(Petition for Judicial Recognition of Foreign Divorce)
アナルメント
アナルメントというのは離婚そのものが無かった、最初から結婚できる条件を満たしていなかったために結婚が無効であるなどを裁判所に訴える方法で、以下の2種類があります。
- Nullity (ナリティ)
- Annulment (アナルメント)
ナリティ(Nullity)
ナリティの定義はこうです
「婚姻関係に必要な責任や義務を理解し、遂行する能力が、結婚当初から持続的に欠けていたこと」
つまり・・・
- 極端に自己中心的で共感できない
(例:ナルシシズム、自己愛性パーソナリティ障害) - 継続的な無関心
(配偶者や家庭を完全に無視) - 家庭内暴力や過度の束縛
(コントロール欲が強く病的) - 重度の依存性
(親や薬物、ゲームなどに強く依存し配偶者と生活できない) - 慢性的な嘘・浮気・無責任行動
(改善の意思も能力もない) - 精神的に婚姻責任を負えない状態での結婚
(※心理的無能力) - 重婚
(すでに配偶者がいた) - 近親婚
(法律で禁止された親族間) - 法的婚姻要件を満たしていなかった
- 司祭や役人でない者が結婚させた
(形式的無効)
重婚などの明らかな犯罪なら別ですが、ナリティを理由に離婚をするのは非常に困難です。
なぜなら、専門の精神科医や臨床心理士による心理評価書を書いてもらい、家族や第三者の証言をあつめ、結婚生活中の客観的証拠を十分に収集してナリティを証明しなければならないからです。
アナルメント(Annulment)
アナルメントの定義はこうです
「形式的には有効に成立した結婚を、特定の理由により「取り消す」ことを求める裁判」
まあ、離婚というよりは最初から婚姻できる条件で無かったことにするということですね。
条件としては、
- 18歳未満での結婚
(親の同意が無かった) - 詐欺による結婚
(例:妊娠を偽った、重婚を隠していた) - 強制・脅迫による結婚
- 性的不能(impotence)を隠していた
- 精神的に不適格であった
(軽度、または結婚当初は一時的に問題があった) - 薬物・アルコール依存など重大な習慣的障害
このことから、アナルメントによる離婚も、非常に困難であることを理解しなければなりません。フィリピンに巣食う日本人経営の悪徳コンサルタンシー会社などは、言葉巧みにアナルメントを勧めてきますが、お互いの性格の不一致などはまったくアナルメントの理由にならないので、日本の常識を捨てない限り詐欺被害に遭いやすくなります。
日本で通る離婚理由はフィリピンでは一切通用しない
日本では以下のような理由は離婚の理由になりますが、フィリピン人同士がこれらを理由に離婚することは非常に困難(ほぼ不可能)です。
- 単なる性格の不一致
- 嫌いになった
- 喧嘩が多い
- 配偶者の浮気(それ単体では不十分)
- 金銭的トラブル
- 愛情の消失
海外離婚認証裁判
日本人を含む外国人がフィリピンで離婚しようとするならば、まず外国で離婚を成立させておいてから、その離婚の事実をフィリピンの裁判所に認定させるための訴えを起こす方法が実は(簡単ではないですが)一番確実です。以下にそろえなければならない文書や起こさなければならない行動をざっと挙げます。
- (日本)離婚届けの受理証明書や離婚届の原本など
翻訳を添付して➔アポスティーユ取得 - (日本)離婚が記載されている戸籍謄本
翻訳を添付して➔アポスティーユ取得 - (日本)離婚裁判した場合は、離婚理由が書かれた調停調書や判決文
翻訳を添付して➔アポスティーユ取得 - (ID)身分証明書:
パスポート、ACR-Iカード、運転免許証など - (比国)結婚証明書:
PSAでオンラインで取得可能 - 日本の戸籍制度の解説文書
これが非常にやっかい。民法だけではだめ(後で詳しく説明) - フィリピンの全国紙(新聞)に数回にわたって公告を出す
離婚の調停を開始する旨の公告を新聞に掲載します。 - 公判に出廷
本人尋問があります。尋問内容と模範解答は弁護士と十分に打ち合わせます。特に結婚を登記した日付や二人が知り合った日付、離婚を決めた日付、離婚を提起した日付など重要な日付はメモを作成して間違えないできちんと言えるように準備しておかなければなりません。 - 判決
- マニフェステイションの送付
- 判決確定証明書の取得
- 役所での結婚状況削除依頼
日本の戸籍制度の解説文書について
民法の家族制度に関する条文については、翻訳とアポスティーユが必要となります。ただし、現行の民法は明治以降に何度も改正が行われているため、各改正の内容が分かるように整理する必要があります。そのため、該当する官報の改正箇所を抜粋し、それぞれを翻訳した上で公証・アポスティーユを取得する作業が求められます。
さらに、子供や養子が関係する場合には、離婚の条文だけでは不十分とされ、親権や扶養、相続、養子縁組などを含む家族制度全体の条文について翻訳とアポスティーユを準備するよう裁判所から求められることがあります。その分、提出範囲も広くなり、作業量や費用も増える点に注意が必要です。
なお、翻訳は当事者本人によるものは認められず、必ず第三者が行い、公証を経る必要があります。また、国会図書館で六法全書や官報の所蔵証明付きコピーを取得する場合は、本人が自己案件として申請する場合に限られ、業者が代理取得することは規則上認められていません。そのため、本人が直接国会図書館へ出向いて手続きを行う必要があります
国会図書館でないとだめ!
改ざんなどを防止するために、民法や官報は国会図書館所蔵の図書からのコピーでないと認められません。これも面倒な作業で、以下のような手順が必要です。(国会図書館の入館カードは持っている前提です)。
- 国会関係の図書の収蔵コーナーへ行き、フィリピンでの離婚裁判に必要なので民法と官報のコピーを特別に取らせてほしい旨を伝える。
- 特別許可を申請する紙をくれるので記入する。
- 民法と当該官報を探し出してきてコピー申請をする。
民法は家族に関連する条項すべて。特に離婚に関する部分。
官報はその民法の該当部分が改正されたときの証拠となる号を取得。 - コピー受付にてコピー依頼する(有料)
- コピーした原本を英訳する
- 国会図書館で「国立国会図書館所蔵図書館資料に関する証明書」を書いてもらう。
確かに国会図書館で所蔵していた書籍のコピーですよという証明書。
「所蔵証明書」 とか「蔵書証明書」と呼ばれています。 - 東京・大阪などお大都市の公証人役場へ行ってアポスティーユ認証をとる
民法やGHQ統治時代の官報は英語版が国会図書館にあります。書庫ラックにはない別場所で保管しているようでしたので、係の人に英語版がほしいと聞いてください。
アポスティーユは1回2~3万円かかるため、官報などはまとめて1冊として認証してもらうと経費が節約できます。
まあ、めんどくさいですが、怪しいコンサル会社にこの書類の準備だけで数十万円以上も支払うようなものではありません。コンサル会社やエージェントに依頼するなら、まずこの翻訳について民法の翻訳をやってくれるのか聞いたほうが良いです。
もしも、民法の翻訳が必要などと言ってくるようなド素人会社なら即刻見限ったほうが賢明です。だって、民法は英語版が国会図書館に所蔵されてるんですから(笑)
裁判提起前の準備
いろいろな書類を準備しなければなりませんが、最も厄介なのは、この海外離婚認証裁判を起こす旨をフィリピンの新聞(全国紙)に最低2回掲載しなければならない点です。当然、費用もかかりますが、これはフィリピン人弁護士に任せるしかありません。
さらに、離婚を提起する際の訴状などの書面は、相手方に対して LBC などの宅配便で送付します。相手が受け取らなくても問題はなく、「送付した」という事実を証明できれば要件を満たすことになります。
裁判の提起
裁判を提起する場所は、基本的に婚姻を申請した市の裁判所となります。したがって、結婚の際には将来の手続きも見据えて、自宅のある市で婚姻を登録するのが望ましいでしょう。
ここで注意すべきなのは、悪質なコンサルタント業者の存在です。日本から来てすぐに結婚式を挙げたい人向けに、業者自身があらかじめ借りているアパートの住所を使わせて、マニラで婚姻を登記させるという違法行為を持ちかけるケースがあります。このような不正が発覚すれば、結婚が無効になるどころか、より重大な法的トラブルに発展する危険性があります。決してこのような悪質業者に関わらないようにしてください。
出廷の様子
日本人が出廷を求められる理由は、大きく分けて二つあります。第一に、提出した証拠書類が日本人本人による原本であることを、本人の証言によって確認するため。第二に、日本(海外)ですでに離婚が成立している事実を裁判官に理解してもらうためです。
順調に進めば、これら二つの審理は一度の出廷で済む場合もあります。ただし、提出書類は非常に多岐にわたり、数も多いので、もしもその中に不備が見つかれば、追加の出廷を求められることになります。そのため、実際には二度程度の出廷は想定しておいた方がよいでしょう。
裁判所判事へのNGワード
海外離婚認証裁判を提起したら、裁判所に出廷しなければなりません。日常会話レベルの英語でいろいろ質問されますが、絶対に言ってはいけないキーワードがいくつかあります。
- 離婚という単語を口に出す
フィリピンには離婚制度はないので、「あなたはこの法廷に何を望んでいるのですか?」と聞かれた際に「離婚をしたいです」と答えると、即座に裁判が却下されて終了します。正しい答えは事前に弁護士からレクチャーしてもらいましょう。 - 裁判官にタメ口をきく
絶対に辞めましょう。へたをすればブチ切れられて裁判が難航します。裁判官のことは「ジャッジ」ではなく「ユア・オナー(Your Honor)」でなければなりません。「はい、その通りです裁判官」と言いたい場合は「イエス・ユア・オナー(Yes, Your Honor)」というように言います。
数か月後に判決
裁判所に出廷し、「あとは判決待ち」と言い渡された場合、数週間から数か月判決を待ちましょう。判決が出ても安心はできません。実はまだやることがあります。
判決確定証明書
フィリピンでは、裁判で判決が出たあと、上訴がなされずに確定した場合や、最高裁判所まで争われて最終判断が下された場合に、その判決が確定したことを示す文書として「Certificate of Finality(判決確定証明書)」が裁判所書記官から交付されます。
マニフェステイションの提出
これ以上上訴などを行わない旨を確認するために、マニフェステーションの提出を求められる場合があります。これを提出すると最終判決までの時間が短縮され、判決確定証明書(Certificate of Finality)がより迅速に発行されるようになります。そのため、裁判所のフィスカル(検察官)などからマニフェステーションを提出するよう指示されることがありますが、その場合は素直に従うのがよいでしょう。
最終判決文書をもって結婚登記地の役所へ!
判決確定証明書(Certificate of Finality)が交付されたら、それを持って結婚を登録した市役所へ行き、婚姻の事実を無効化する手続を行う必要があります。これをしないままにしていると、最終的にフィリピン統計庁(PSA)から婚姻記録を取得した際に、ステータスが依然として「既婚」のまま残ってしまいます。
どれくらいかかるのか
費用に貸しては大した金額はかかりません。フィリピン人の弁護士に直接依頼すれば、数万ペソで請け負ってくれる人もいます。ただし、日本人経営の悪徳コンサルタンシー会社に依頼すると数百万円をふっかけられます(しかも失敗しやすい)ので、インチキ業者には十分に気をつけましょう。
さらに、期間ですが、裁判所類をすべて用意し、新聞に公告を出して2週間以上待ち、そのうえで裁判を提起するわけですが、裁判を提起してから結審するまでには最短でも約半年かかります。その後、しっかりと判決確定証明書(Certificate of Finality)までもっていくために数週間から数か月(長い人だと1年ほど)かかります。その後、結婚を登記した役所へいって結婚の登記を削除してもらうのに数日から数週間の時間がかかります。
あたまの悪い噂を信じないように!
繁華街などでは、訳知り顔の日本人が「海外離婚認証裁判をすれば何度でも離婚して再婚できるよ!」などともっともらしく話すことがありますが、絶対に信用してはいけません。フィリピンの裁判所は基本的にフィリピン人側の立場を重視しますので、このように結婚と離婚を繰り返していれば、悪質性が認定され、海外離婚認証裁判そのものが却下される可能性も十分にあります。
さらに、裁判は一度結審すれば、上訴しない限り同じ理由で二度と訴えを提起することはできません。そして「悪質」と判断されて却下されたようなケースでは、上訴をしても認められる可能性は極めて低いことを理解しておくべきです。
日本の離婚認証裁判を手掛けたことのある弁護士に依頼するのがベスト
はっきり言って日本人経営のコンサルタントなども裏で低賃金低能なフィリピン人弁護士と契約していて、いかにも実績があるような顔をしながら敗訴を繰り返している会社が多いです。結局低能弁護士をオブラートで包んで言葉巧みに営業をかけているだけなので、依頼主の利益や安全など知ったことではないようです。
程度の低い日本人経営のコンサルタンシー会社に気を付けて!
マニラのパサイ市にあるとある高齢社長のコンサルタンシー会社などは酷いもので、弁護士の怠慢をさもフィリピンでは当たり前であるかのように言い放ち、やらなければならない作業をほったらかしにしたり、作成した書面がまったくのデタラメだったりしています。こんなデタラメな会社と契約してしまったら最後、通常半年もあれば結審する海外離婚認証裁判に10年もかかって、しかもしまいには敗訴するしまつ・・・。
悪徳コンサルタンシーを見抜く方法は・・・
このブログでも良く言うことですが、まず最初にフィリピン歳入庁(BIR)が発行する正式な領収書か、弁護士事務所が発行する領収書を使っているか確認することです。それ以外の例えば日本のコクヨの領収書などを書いてくる会社はすべて脱税会社ですので気をつけましょう。そういう悪徳会社はへいきで人を陥れますから、顧客がBIRの領収書を書かなくて良いから料金を安くしろと迫られたなどと供述されたりしたら、支払いをしたあなたにまで脱税の共犯者として裁かれることになります。そうなれば、将来的なビザ申請、起業、法務関係の申請で、問題歴として記録が残るおそれがあります。かならず証拠が残る形で「BIRの公式レシートをお願いします」といったメッセージを入れてスクショを取っておくことをおすすめします。
離婚認証裁判のベストプラクティスは・・・
フィリピン人弁護士と依頼人が直接契約することを補助してくれる日本人経営の会社があればベストです。非常に数は少ないですが、書類の収集や翻訳業務などを主体として活動している会社があります。この会社はフィリピン人弁護士と包括契約をしているので、離婚裁判のすべてをフィリピン人弁護士とだけ契約し、よけいな翻訳費だの文書収集費だのを請求をしないことで依頼者から信頼を得ている会社です。
信頼できる会社の紹介
セブにある「アスパイアスコープ」は、数少ない上記の条件をすべて満たしている会社です。この会社は、翻訳業と文書収集が主業務なので、海外離婚裁判やフィリピンのクオータ移民ビザなどは提携先の弁護士がすべて請け負う形で作業します。つまりあなたと弁護士が直接に契約するため、アスパイアスコープ社への追加の支払いなどが一切発生しないのもうれしいところです。
では、アスパイアスコープ社はどうやって利益を得ているかというと、同社は弁護士との包括契約をしていて、弁護士から直接費用を受け取っているので、毎回の案件で料金を請求することがないようになっているわけです。